軽自動車の購入を検討している中で、「ピラーレス(Bピラーレス)」仕様の車が気になっている方は非常に多いのではないでしょうか。
CMなどで見かける、あの柱がない広大な開口部は、子育て世代やアウトドア好きにとって夢のような機能に見えます。
しかし、その一方で「本当に柱がなくて大丈夫なの?」「横からぶつかられたら危険なんじゃないの?」という、安全性に対する不安の声があるのも事実です。
特に大切な家族や小さなお子様を乗せる車ですから、どれだけ便利でも、安全性が犠牲になっていては意味がありませんよね。
また、実際に所有してみないとわからないデメリットがあるなら、購入前にしっかり把握しておきたいところでしょう。
この記事では、「軽自動車のピラーレス」に関する技術的な仕組みから、客観的な安全性評価、そしてライバル車との比較まで、徹底的にリサーチした情報をわかりやすく解説します。
軽自動車のピラーレスは危険?安全性と仕組み

「柱がないなんて、構造的に弱いに決まっている」と直感的に感じるのは、ある意味で正しい感覚です。
自動車にとってBピラー(前席と後席の間にある柱)は、屋根を支え、側面衝突時の衝撃を受け止める極めて重要な骨格だからです。
しかし、メーカーのエンジニアたちは、その常識を覆すために膨大な技術検証を行っています。
ここでは、なぜ柱がなくても安全性が保たれるのか、その「魔法」のような技術の裏側を深掘りしていきましょう。
そもそもピラーレスとは?仕組みと構造
まず、言葉の定義から明確にしておきましょう。一般的に「ピラーレス」や「Bピラーレス」と呼ばれていますが、建築物のように「支える柱が完全に消失している」わけではありません。
もし本当に柱がなければ、車は走行中の振動で歪み、屋根は自重でたわんでしまうでしょう。
正確には、この構造は「ピラーインドア(Pillar-in-Door)」または「ビルトインピラー」と呼ばれています。
これは文字通り、本来ボディの側面(車体側)に溶接されているはずの強固な柱(Bピラー)を、「スライドドアやフロントドアの内部に埋め込んでしまった」構造を指します。
ドア自体が「動く柱」になる
イメージしてみてください。通常のお城の門には、左右に太い柱があり、その間に扉がありますよね。
ピラーレス車の場合、その「柱」を扉の裏側にガッチリと接着しているような状態です。
ドアを開けているときは柱ごと移動するので広大な入り口が現れますが、ドアを閉めると、ドアに内蔵された柱が車体の上下(屋根と床)にある結合部とカチャン!と噛み合い、ボディの一部として機能し始めます。
つまり、「柱をなくした」のではなく、「柱をドアの中に移動させ、必要な時だけ繋ぐ」という極めて高度な発想の転換が行われているのです。
これにより、停車時の圧倒的な開放感と、走行時の剛性確保という、相反する二つの要素を両立させています。
なぜ「ピラーレス」と呼ぶの?
メーカーのカタログなどでは「センターピラーレス」等の表記が見られますが、これはあくまで「ドアを開けた時にピラーがない状態」を指すマーケティング用語に近いものです。技術的な実態としては、世界でも類を見ないほど太くて頑丈な柱が、ドアの中に隠されているのです。
ピラーレスは危険?事故時の安全性を検証
仕組みはわかったけれど、「結合しているだけなら、やっぱり溶接された一本の柱より弱いのでは?」という懸念は残りますよね。
特に、交差点での出会い頭の事故など、車両の側面に直接衝撃が加わる「側面衝突(サイドクラッシュ)」において、ピラーレス車はどれだけ乗員を守れるのでしょうか。
結論からいうと「ピラーレス構造だからといって、安全性において劣っている、あるいは危険である」という事実は、今の技術水準においては否定されています。
現代の自動車設計では、コンピューターシミュレーション(CAE解析)により、衝突時のエネルギーがどのように車体を伝わるかが緻密に計算されています。
ピラーレス車の場合、側面から衝撃を受けると、ドアに内蔵されたピラーがそのエネルギーを受け止め、それを屋根の骨格(ルーフサイドレール)や床の骨格(サイドシル)、さらにはドア内部の補強材を通して車体全体に分散させるように設計されています。
つまり「点」で衝撃を受けるのではなく、車体全体を「面」や「箱」として機能させることで、キャビン(居住空間)の変形を最小限に抑える工夫がなされているのです。
これは、ピラーがある通常の車と同じ安全思想であり、ピラーレス車だけが特別なリスクを負っているわけではありません。
ドア内部の強度と剛性確保の工夫

出典:ダイハツHP「タント」
では、具体的にどのような部材を使って強度を確保しているのでしょうか。ここには、日本の素材産業の技術の粋が詰め込まれています。
ピラーレス車のスライドドアおよびフロントドアの後端内部には、通常の自動車用鋼板とは比較にならないほど硬くて強い「超高張力鋼板(ハイテン材)」が使用されています。
モデルによっては、引張強度が980MPa級、あるいはそれ以上のホットスタンプ材などが採用されており、これは一般的な鋼板の3倍~4倍以上の強度を誇ります。
ガッチリ噛み合うロック機構の秘密
また、素材だけでなく「つなぎ目」の技術も重要です。
ドアを閉めた際、ドア内部のピラーをボディに固定するために、ドアの上部と下部には非常に頑丈なロック機構(ストライカーとキャッチピン)が備わっています。
ダイハツのタントなどを例に見ると、ドアを閉めると「バスン!」という重厚な音がしますよね。あれは、単にドアが閉まった音ではなく、上下のロック機構が金属同士でガッチリと噛み合い、ボディとドアが一体化した証拠でもあります。
衝突時には、このフックが絶対に外れないように設計されており、ドアが室内側にめり込むのを物理的に阻止しています。
このように、ピラーレス車は「ただ柱がない車」ではなく、「通常よりもはるかに頑丈なドアを持つ車」と言い換えることもできるのです。
国の評価試験で見る実際の安全性

メーカーがいくら「安全です」と言っても、第三者の評価がなければ信じきれませんよね。
そこで参考になるのが、国土交通省と自動車事故対策機構(NASVA)が実施している「自動車アセスメント(JNCAP)」という公的な安全性評価試験の結果です。
実際に、助手席側がピラーレス構造となっているホンダの商用バン「N-VAN」の評価データを見てみましょう。
2018年度に行われた衝突安全性能評価において、N-VANは側面衝突試験で極めて高いスコアを記録しています。
ホンダ N-VAN(2018年度評価)
側面衝突試験において、最高評価である「Level 5」(得点率100%:16.00点/16.00点)を獲得。
この試験は、台車につけたバリアを車両側面に衝突させる過酷なものですが、ピラーレス側であっても満点の評価を得ているという事実は非常に重みがあります。
これは、「適切な設計と材料選定が行われていれば、ピラーレス構造であっても国の定める最高ランクの安全基準をクリアできる」ことを客観的に証明しています。
(出典:自動車事故対策機構(NASVA)『自動車アセスメント N-VAN衝突安全性能評価詳細』)
ただし、全てのピラーレス車が全く同じ評価結果になるわけではありません。
車種や年式、プラットフォームの新旧によって評価(スターの数など)は異なります。中古車を検討される際は、そのモデルの年式におけるJNCAPの評価を確認することをおすすめします。
風切り音などピラーレスのデメリット

安全性については技術的にクリアされていることがわかりましたが、構造が特殊である以上、どうしても避けられないデメリットやリスクも存在します。
購入してから「こんなはずじゃなかった」と後悔しないよう、ネガティブな側面もしっかり理解しておきましょう。
1. 風切り音(ウィンドノイズ)のリスク
通常の車はBピラーがあるため、ドアとボディの隙間を埋めるのは比較的容易です。
しかし、ピラーレス車は「ドアとドア(フロントドアとスライドドア)」が直接重なり合って密閉する構造になっています。
新車のうちは問題ありませんが、長年乗ってゴムパッキン(ウェザーストリップ)が劣化してきたり、ボディがわずかに歪んだりすると、高速道路での走行時に隙間風のような「ヒューヒュー」「ザワザワ」という風切り音が発生しやすくなる傾向があります。
これに対し、オーナーの中には市販の「風切り音防止テープ」などを貼って対策している方も多く見られます。
2. ドアの重量と操作性
前述の通り、ドア内部には極めて頑丈な補強材やロック機構が満載されています。そのため、通常の車のドアよりも物理的に重いのです。
平坦な場所では電動スライドドアのおかげで気になりませんが、手動での開閉時や、坂道でフロントドアを開ける際には、ズシリとした重さを感じることがあります。
特に、力の弱いお子様やご高齢の方がフロントドアを操作する際は、強風に煽られたり、傾斜でドアが勝手に閉まってきたりしないように注意が必要です。
3. 修理費用の高騰リスク
万が一、ドア部分をぶつけてしまった場合、修理費用が一般的な車よりも高額になる可能性があります。理由は単純で、内部に使われている「超高張力鋼板」が硬すぎて板金修理(叩いて直すこと)が難しく、ドアごとの交換(アッセンブリー交換)になりやすいからです。
また、部品代そのものも高価であり、建付け調整などの作業工賃も複雑なため割高になる傾向があります。「ちょっと擦っただけ」と思っても、見積もりを見て驚く…というケースも想定しておくべきでしょう。
ピラーレス採用の軽自動車一覧とおすすめ車種

ここまで、ピラーレス車の種技術的な仕組みやメリット・デメリットを詳しく解説してきました。
安全性が担保されているなら、あの圧倒的な使い勝手を手に入れたい!と考える方も多いはずです。
ここでは、現在市場で人気を博している代表的なピラーレス採用車種について、それぞれの特徴やおすすめポイントを比較しながら紹介します。
元祖ピラーレスのダイハツタント

出典:ダイハツHP「タント」
「軽自動車のピラーレス」というジャンルを切り拓き、今なおトップランナーとして君臨しているのがダイハツの「タント」です。
2007年の2代目モデルでの初採用以来、代名詞とも言える「ミラクルオープンドア」は進化を続けており、単に「開口部が広い」という物理的なメリットを超えた、独自の世界観を作り上げています。
現在、タントは1,485,000円(消費税込み)~、タントカスタムは1,870,000円(消費税込)から新車で購入可能です。
生活動線を変える「ミラクルウォークスルー」

出典:ダイハツHP「タント」
タントの凄さは、助手席側のピラーレス構造(開口幅1,490mm)と、運転席・助手席のロングスライド機能を組み合わせた「ミラクルウォークスルーパッケージ」にあります。
運転席が最大540mmも後ろにスライドできるため、例えば車を停めた後、車から降りることなく運転席から後席へ移動し、子供のケアをしてから助手席側のスライドドアで一緒に降りる、といったスムーズな動線が可能になります。
また、雨の日や狭い駐車場で、わざわざ外に出て運転席側のドアを開け閉めする必要がないのは、まさに「動線革命」と言えるでしょう。
ここがポイント!
A型ベビーカーを折りたたまずにそのまま助手席足元に乗せられる利便性は有名ですが、それだけでなく、高齢の方の送迎においても、ピラーが邪魔にならないためスムーズに座席へ誘導できるというメリットもあります。
ファミリーカーとしてだけでなく、福祉車両的な使いやすさも兼ね備えているのがタントの底力ですね。
助手席も倒れるホンダN-VAN

出典:ホンダHP「N-VAN」
ファミリー向けのタントに対し、商用バンとしての「プロの道具」感と、遊び心満載の「秘密基地」感を両立させているのがホンダの「N-VAN」です。
FF車なら、新車価格が1,392,600円(消費税込み)~という、非常にお求めやすい金額で購入できるのも大きな魅力のひとつ。
この車の最大の特徴は、助手席側のピラーレス構造に加えて、「助手席そのものを床下に完全収納(ダイブダウン)できる」という、他車には真似できない離れ業をやってのけた点です。
長尺物の積載に革命を起こした「ダブルビッグ大開口」

出典:ホンダHP「N-VAN」
N-VANの助手席側ピラーレス開口幅は、タントをも上回る約1,580mm。しかし、数字以上に衝撃的なのは、助手席と後席を倒した時に現れる、バックドアからダッシュボード下まで続く完全フラットな床面です。
最大スペース長は2,635mmにも達するため、建築資材の長いパイプや木材はもちろん、脚立や、あるいは趣味のサーフボードやロードバイクなどを、タイヤを外さずにそのまま積み込むことが可能です。
しかも、バックドアを開けるスペースがない狭い現場や駐車場でも、サイドからスルスルと長尺物を差し込めるため、仕事や趣味の効率が劇的に向上します。
注意点:助手席の座り心地について

出典:ホンダHP「N-VAN」
圧倒的な積載性を実現するために、N-VANの助手席は「格納すること」を最優先に設計されています。
そのため、座面は薄く平らで、リクライニング機能も簡易的なものです。長時間のドライブで人を乗せるには少々厳しい作りになっている点は、購入前に必ず理解しておくべきポイントです。
「助手席には誰も座らない、俺の相棒は荷物だ!」という職人さんや、一人で気ままに旅をするソロキャンパーにとって、これほど理にかなった車は他に存在しません。
壁面にはユーティリティナット(ネジ穴)が多数配置されており、棚やフックをDIYで追加しやすいのも、自分だけの一台を作り上げたいユーザーにはたまらない魅力ですね。
スペーシアやN-BOXとの比較

ここで気になるのが、ライバルであるスズキの「スペーシア」や、日本で一番売れている車であるホンダの「N-BOX」は、なぜピラーレスを採用しないのか?という点です。
技術的に不可能なわけではなく、そこには各メーカーの明確な「戦略の違い」があります。
| 車種名 | ピラーレス | 開口幅(目安) | メーカーの設計思想・戦略 |
|---|---|---|---|
ダイハツ タント![]() | あり | 1,490mm | 「乗降性最優先」。子育ての負担軽減を最大の価値とする。 |
ホンダ N-VAN![]() | あり | 1,580mm | 「積載性最優先」。商用としての使い勝手と長尺物対応を重視。 |
スズキ スペーシア![]() | なし | 約600mm | 「軽量化と燃費」。部品点数増加による重量増を嫌い、燃費性能を追求。 |
ホンダ N-BOX![]() | なし | 約640mm | 「走行性能と静粛性」。ボディ剛性を高め、普通車並みの乗り心地を目指す。 |
なぜ他社は採用しないのか?
スズキは「スペーシア」において、軽量高剛性プラットフォーム「HEARTECT(ハーテクト)」を採用し、車両重量の軽さとマイルドハイブリッドによる低燃費を武器にしています。
ピラーインドア構造にすると、どうしても補強材で数十キロ単位の重量増となり、燃費競争で不利になると判断しているのでしょう。
一方、ホンダの「N-BOX」は、軽自動車の枠を超えた上質な走りや静粛性を売りにしています。
ピラーを残すことでボディ全体の剛性を無理なく高め、高速道路でもふらつかない安定感を実現しています。
「スライドドアの開口幅は60cmあれば十分実用的であり、それ以上の広さよりも、走りの良さや静かさを取る」という割り切りが見て取れます。
子育てや車中泊での便利な使い方

では、ピラーレスが具体的にどのようなシーンで真価を発揮するのか、生活のワンシーンを切り取って見てみましょう。
子育てシーン:イライラが激減する魔法の空間
子供が小さいうちは、チャイルドシートへの乗せ降ろしは重労働です。
特にピラーがある車だと、柱を避けるために体を不自然にひねったり、子供の頭をぶつけないように気を使ったりと、腰への負担も大きいです。
ですが、ピラーレスなら正面から子供と向き合って作業ができます。
また、子供が車内で着替える際や、おむつ交換をする際も、外から親が身を乗り出してケアできるスペースが広いため、圧倒的に楽になります。
「車が育児を手伝ってくれる」感覚に近いかもしれませんね。
アウトドアシーン:車内外がつながるリビング体験
キャンプやピクニックでは、助手席側のドアを全開にして、サイドオーニング(日よけ)を展開すれば、車内と車外がひと続きのオープンリビングに早変わりします。
邪魔になるピラーがないため、車内に置いたクーラーボックスから飲み物を取ったり、ベンチ代わりに腰掛けたりする動線が遮られません。
また、N-VANであれば助手席をテーブルにしてカフェのような使い方も可能です。この「基地感」は、一度味わうと病みつきになる楽しさがあります。
軽自動車のピラーレスを選ぶべき人とは:総括

最後にまとめとして、軽自動車のピラーレス車は「誰にとってのベストバイ(買い)」なのか、私なりの結論をお伝えします。
逆に、「燃費の良さを最優先したい(1円でもガソリン代を浮かせたい)」方や、「長距離ドライブが多いので、静かで疲れにくい車がいい」という方は、あえてピラーありのスペーシアやN-BOXを選ぶ方が満足度は高いかもしれません。
ピラーレス構造は、日本の技術が生んだ素晴らしい発明ですが、全ての人に万能というわけではありません。
しかし、その機能がご自身のライフスタイルにハマったとき、これほど便利な車は他にないでしょう。ぜひ一度ディーラーに足を運び、実際にドアを開けて、その開放感を体験してみてくださいね。





